三徳山投入堂みとくさんなげいれどうに挑む

 「 I さんが投入堂に行きたいと言ってるよ」と、これも山歩きの好きなSさんが情報を入れてくれた。Sさんは土日でないと駄目だし、I さんはウィークデーが良いという。僕は一番自由がきく立場。
 I さんの都合で5月31日火曜日、天気がよければ決行しようと話がついた。
 投入堂には若いころ登った経験があるが、それは50年も前のこと。鎖を伝って登ったことを覚えている程度で、この歳で行けるかどうか、甚だ心もとない。山歩きはいつも体力テストだと踏んで実行しているので、無理だったら途中から引き返せばいい。今回もその程度のつもりで決行を決めた。
 当日は天候も上々。「三徳山」をナビに入れて朝7時出発。車を出してくれる I さん夫妻と僕、それに今回はじめて加わったFさんの4人連れ。
 濃霧の岡山道を経由、「このナビは古いから・・・」などとナビの誘導を疑いながらも鳥取県三朝町に着く。



 大鳥居をくぐって大門駐車場を通り過ぎ、観音院駐車場に車を停めて、まずは案内図を見る。
 9時半過ぎだ
 少し戻る方向に歩いて谷川天狗堂の中を通過させてもらって正面階段の途中に出る。
 参詣者受付案内所で400円を支払って案内図を頂き登り始める。


 案内図によると三佛寺本堂に至るまでに皆成院、正全院、輪光院の宿坊と宝物殿がある。
 輪光院の門脇に大きな念珠。「百八煩悩転生大念珠」とある。念珠の手前を引くとカチカチカチと音を立てて珠が落ちてくる。南無観世音菩薩を唱えて参詣の無事を祈る。
 



 三佛寺を目指して歩を進める。
 この階段、何年前から使われているのか、何人の善男善女が踏み入れたのか・・・石がすり減って波打って見える。




 三佛寺に着く。
 ここは本堂から少し離れて建つ宿坊でもある。予約しておけば食事にも預かることができるようだ。



 三佛寺本堂には鰐口が下がっている。車で鳥居をくぐって来たのを思い出す。神仏習合の名残か。鈴でなく鰐口なのはお寺的?



 本堂の裏で投入堂参詣の手続きを取る。
 一人づつ背中向きになり、靴の裏を見せてOKをもらい、200円を納めて御札をいただく。
 登山開始の時刻をノートに記入する。下山してきたらその時刻を記入して無事下山の印となる仕組み。
 貸して頂いた「六根清浄」のたすきを掛けて「一日善男善女」となり、いよいよ参詣登山だ。




 赤い宿入橋を通り抜けたところに大杉を見つける。岩を抱く根が三徳山の古さを示している。



 注連縄掛しめなわかけ杉。
 そういえば注連縄も神社につきものだ。





 この辺りはなだらかな山道・・・と思うまもなく急坂が待ち構えていた。




 ここがいわゆる「かずら坂」。
 縦横無尽に走っている木の根を両手両足で探りながら登っていく。
 道は狭いところが多いので登る人と下りる人とのが出会うと、やや広い場所で相手を待ってやり過ごす。足を止めて一休みするときも登下山者の邪魔にならない広めの場所を選ぶことになる。
 片道600mの道のりなので出会いはさほど多くはなかった。

 安全が第一。木の根をしっかりと掴んでゆっくりと慎重に登る。







 続く難所は「くさり坂」。
 文殊堂の上がわの柱に留められた鎖が頼りだ。
 安全のためひとりずつ登らねばならない。



 修行のためとはいえ結構きつい。

 これでは善男善女すべてが詣るわけには行かない。そのために「投入堂遥拝所」が道路沿いに設けてあり、そこから投入堂を拝む事ができる。また「投入堂・地蔵堂・文殊堂を見渡せる場所も地図に示してある。




 文殊堂に着く。堂内には入れないが濡縁は一周できる。靴を脱いで歩を進めるが、欄干めいたガードがないので慎重に歩く。すぐ上に地蔵堂の屋根が望める。
 文殊堂、地蔵堂ともに国指定の重要文化財だ。



 山並を見下ろす気分は爽快だ。
 遠望がきくのでパノラマ撮影を試みる。



 10分も歩くと地蔵堂が待っていてくれる。
 ここも堂内は閉ざされている。ガードのない濡縁を回り、今来た下界を見下ろしてみる。




 相棒3人も廊下を回って来る。高所恐怖症を自称するFさんも肝試しか。




 地蔵堂から5分も歩けば鐘楼堂に着く。
 賽銭受けにおいてある空き缶に幾許かの奉謝を入れて鐘を撞かせてもらう。連打しないようにと注意書きがある。連打は緊急時の鐘だそうだ。



 鐘を撞いたあと「馬の背」「牛の背」と呼ばれる岩の稜を伝いながらゆっくりと登って行くと納経堂に着く。

 岩窟の中にしっかりと収まっている。
 一見新しそうに見えるが国指定の重文だ。
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 さらに足を進めると観音堂とその奥に小さな元結掛堂。観音堂も岩窟の中にあり、堂の裏の暗い細道を通り抜けて投入堂を目指す。



 見えてきた! あれが国宝の投入堂だ。三佛寺奥の院に当たる。
 案内書によると8世紀初頭、役行者が法力をもって岩窟に投げ入れたという。
 ご本尊は国重文「金剛蔵王大権現」とあるが、無論お姿を拝める訳はない。
 ここは海抜約500m、参拝事務所からの道のり600m、標高差200m。




 まずは記念撮影。用意してきた自撮り棒の出番だ。
 折角ここまで来て早々と立ち去るのはもったいないが、幸いなことに次の人達が来ないのでゆっくりと休むことができた。
 それにしても「投入堂」とは言い得て妙。


 帰路につく。
 下りは「牛の背」、「馬の背」は背の上を歩くのは滑りそうで、ほとりの窪みを選って下りる。
 「くさり坂」のそばの下り専用路を通ることができるが、「かずら坂」はこの通り。
 山登りは下りが膝や大腿四頭筋に負担がかかり、登りより大変だ。慎重に下りる。


 入峰修行受付所で下山時刻を記入、「六根清浄」たすきを返してほっと一息。靴を洗う場所も用意してある。
 そして本堂にたどり着く。登り始めてから2時間半。
 ここには参詣記念にとお守りやらお菓子類を並べた店がある。店番がいない代わりにお金を入れる箱が無造作に置かれていて、まさに善男善女相手のお店なのだ。
 登山中は食事禁止のため、ここに下りてから弁当のおにぎりを頬張る。三徳山縁起のビデオを見たりしたあと駐車場に向かう。

 三朝温泉だからどこでも日帰り温泉に入れるかと思いきや、格式の高そうな宿は15時からでないとダメ。
 あちこち探しまわって清流荘のお風呂に浸かる。「豆狸の湯」には他にお客さんがなくて貸切状態だ。
 お酒を飲まないFさんに帰路の運転をお任せすることにして、車を出してくれた I さんと僕はささやかに缶ビールを嗜む。
 投入堂参りを決めた時は本当に登れるのかと、やや不安めいた気持ちもあったが、意外とすんなり往復ができて、82歳の身に自信をつけてくれた1日だった。
 三徳山、ありがとうございました。つきあってくれた I さん夫妻とFさん、ありがとう。

 

 

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